今日からオレは、管工事業者になる。

管工事業者への道程とその業界の未来について

熟練の技をハイテクで伝承 名人の知識や経験も蓄積

高齢化と後継者不足に悩む農家。農作業は作物一つ一つの生育状況を把握し、天候を見極めたこまめな手入れが必要など、機械化が進んだ現代でも経験と勘に頼る要素は多い。一朝一夕には技術を習得できないが、そうした熟練の技をITを使って伝承する取り組みに、滋賀県高島市の柿農家の男性が挑戦している。農業にもIoT(モノのインターネット)を取り入れる試みで、日本の農業を伝承し、新たなサービス開発も目指す。

 

「この実は取っていいの」。9月下旬、高島市内の富有柿の農園でゴーグル型の端末を着用した男性の姿があった。父親から柿農家を継いだ水尾学さん(58)で、ハサミを持って柿の木の前に立ち、付属のイヤホン・マイク越しに問いかける。相手は同市内の事務所にいる父の成(しげる)さん(86)だ。

 成さんのパソコンには、学さんがゴーグル型の端末を通して見た映像がリアルタイムで送られる。パソコンには、1本の枝に数個の柿が実った画像が映し出された。

 成さんがそのうち2つの実に手元のペンタブで赤い印を付けると、ゴーグル内側のディスプレーに表示された。学さんはそれを見て印の付いた実を切り取った。「1つ、2つ。オッケー」。成さんが声をかけた。

 この日行ったのは間引き作業。1本の枝に固まって実がつくと栄養分が分散して実が小さくなってしまうため、不要と判断した実は切り落とす。どの実を切り落とすかの判断は、実や枝の太さなどが影響するといい、経験が求められる。

 他にも同じ理由で蕾(つぼみ)の段階で摘み取ってしまう「摘蕾」や花の段階で摘み取る「摘花」の作業もあるが、こちらも経験に裏打ちされた知識が必要。そこでIT機器を活用し、高齢の経験者が直接現場に出なくても同じ作業ができるようにした。

 

遠隔作業のぎこちなさもなく、2人とも慣れた様子で作業を進めた。

目から鱗(うろこ)」の農業活用

 学さんが使用しているのは、セイコーエプソンの業務用スマートグラス「MOVERIO Pro BT-2000」。スマートグラスを着けて作業をすると、指導者のパソコンにリアルタイムで現場の映像が伝送されるので、それを見た指導者が指示をする。

 付属のマイク付きイヤホンで音声でのやりとりも可能。先ほどの印のように、スマートグラスの内側のディスプレーに指導者からの指示内容を表示させることもできる。

 ゴーグル型のため、両手を空けた状態で作業できる。風雨にも対応できるので、屋外での農作業に適している。

 エプソン販売(東京都)の販売推進本部、VPMD部長の蟹澤啓明(かにさわ・ひろあき)さんは農業での活用に「目から鱗だった」と振り返る。

 製品は当初、メーカーの製造現場での「技術伝承」を目的にしていたという。少子高齢化で製造業でも熟練者の技術継承が課題だからだ。蟹澤さんは「熟練者の経験や技術の継承は社会的な課題。農業にも同じ課題があると知った。製品が役に立つことができて光栄」と話す。

伝統の柿、ITで守る

 成さんが住む高島市今津町南深清水は柿の名産地。成さんは柿農家の2代目として約60年間、ほぼ1人で柿を栽培してきた。成さんが育てる富有柿(ふゆうがき)は「非常に甘い」と県内外にファンがおり、県果樹品評会で最優秀賞の「近畿農政局長賞」を受賞するなど高い評価を受けてきた。

 ただ、農業の先行きが不安だったこともあり、学さんに農園を継げとは強く言えなかった。学さんも大学卒業後はメーカーに就職し、電子機器のハードウエア開発に携わってきた。

 当初は関心がなかった農業。しかし、父は80歳を超えて足腰の衰えが目立ち始め、長時間の作業は難しくなった。そんな姿を見る中で芽生えたのが、何とか技術を継承できないかという思い。「おいしい柿、受け継がなあかんよ」。周囲からもそんな声を受け、遠隔から指導してもらうスマートグラスの使用を思いついた。

 「こんな機械使ってどうするんや」。学さんの発案に当初、成さんは戸惑った。成さんはパソコンを使うのは初めて。マウス一つ使うのも苦労したが「時代の波や」と考えを切り替えた。今では「便利。年寄りにはもってこい」と慣れた手つきでペンタブを使うようになった。

 学さんにとって、柿の作業は知らないこと、わからないことだらけ。現場で「わからへん」という学さんに、成さんは根気強くアドバイスを続けた。「作業中も離れていて顔を合わさない分、大げんかにはならずに済みました。機械が間に入ることで、人と人との衝突も起きない。それも遠隔指導のいい点」と学さんは笑う。

AI活用も視野

 「全国にも同じように困っている人たちがいるはず」。学さんは昨年9月、農業コンサルティングなどを行う会社「パーシテック」(京都市)を立ち上げた。

 今後、遠隔指導システムを「後継者育成プログラム」として各地で売り込みたい考えだ。既に、長野県のリンゴ農家が興味を示しているという。

 学さんの想定では、遠隔指導システムが軌道にのれば、広大な農園でも複数の作業グループに1度に指示を伝達できる。ゆくゆくは名人の技能や作業者のデータを蓄積して人工知能(AI)で分析し、作業者に指示を出せれば…と夢は広がる。

 学さんは「今までは、名人の勘と経験に頼ってきた。これからは技術や知識をビッグデータにして蓄積しないと、途絶えてしまう」と力を込める。経験と知識が豊富な高齢者の生きがいにもなり、若者にとっては「IoTを使うことで興味を示しやすいはず」とみる。伝承者、後継者の双方にメリットがあるとの自信もある。

 現在はドローン(小型無人機)で農地を空撮し野菜や果物の収穫状況を確認する仕組みや、温度や湿度、日照時間などの観測データを送信し、遠隔地から栽培を管理する実証実験を柿農園などで行っており、技術が確立すれば売り込んでいく考えだ。

 「農家の息子だからこそ、農家の方も売り込みをある程度受け入れてくれる」と学さん。柿農家と、IoTを使って農家を支援するコンサルタントという二足のわらじで活動を続ける。